徳島地方裁判所 昭和40年(行ウ)9号 判決 1966年4月08日
原告 三原勇
被告 徳島地方法務局長
訴訟代理人 杉浦栄一 外三名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、原告主張の一の事実は当事者間に争いない。
二、原告は、被告がなした本件不認可処分は、法律の規定がないのに選考試験をしたうえなされたものであるから違法であると主張する。
よつて判断するに、司法書士法(昭和二五年法律第一九七号)によると、司法書士になるためには、同法第二条に定める一定の資格を有する者であつてかつ同法第三条に掲げる欠格事由を有しない者が、同法第四条に定める地方法務局長等の選考によつてする認可を受けなければならないと定められ、(第二条・第三条・第四条)、又同法第一八条によると、同法が定めるもののほか司法書士の認可等についての必要な事項は、法務省令で定めるとされており、右の委任に基いて定められている司法書士法施行規則(昭和二五年六月二七日法務府令第七二号)第二条によると、地方法務局長等は、司法書士の認可申請があつたときは(当該申請人について、司法書士法第二条および第三条に規定する要件の有無のほか、その者の司法書士としての適否を審査して、認可すべきか否かを定めなければならないと定められている。
これによると、地方法務局長等が、司法書士の認可申請をした者に対して司法書士の認可をするか否かを決定しようとする場合には、右各法条の定める要件の有無並びに司法書士としての適否について審査をすることはむしろ法律上の義務であつて、右審査の方法として選考試験を実施することは、社会通念上合理的な方法であるというべきである。
そうすると、被告がなした本件不認可処分は法律上の規定がないのに選考試験を実施したうえになされたものであるから違法であるとする原告の主張は、理由のないものというべきである。
三、つぎに原告は、被告が、原告の司法書士の認可申請に対して、選考試験をしたうえで不認可の処分をしたことは、憲法第一一条、第二一条、第二二条、第九八条に違反するものであると主張する。
よつて判断すると、司法書士は、他人の嘱託を受けて、その者が裁判所、検察庁又は法務局等に提出する書類を代つて作成することを業とするものである(司法書士法第一条)が一般人が裁判所・検察庁又は法務局等に書類を提出することは、多くの場合はその権利・義務その他の利害に関する事項について何等かの処分を求める目的でなされるものであるから、その書類作成の嘱託を受けるべき司法書士の業務遂行が適正に行われないときは、嘱託人の利益が著しくそこなわれる虞があり、従つて、右の如き業務を遂行すべき司法書士について、法がある程度の教養および学力を有することを要求するのは、一般国民のかかる利益を保護するうえに必要欠くべからざることであつて、右の教養および学力の有無並びに司法書士としての適否を試験等の方法によつて選考判定し、一定の教養学力等を有すると認められる者についてのみ司法書士としての認可を与えることは、むしろ一般国民の利益を守りその福祉を保護するために必要であり且つ合理的なことであるというべきである。
もともと、憲法は、国民に無制約の自由を認めたものではなく、公共の福祉の要請がある限りこれが制限されうることをも認めているのであり、司法書士法並びにその委任を受けた司法書士法施行規則の認可に関する前述の諸規定は、公共の福祉を維持するための必要な制限であると解されるから、これに基いて被告が為した本件司法書士不認可処分が、原告主張の如き憲法の諸規定に違反するということはできない。
よつて、この点に関する原告の主張も理由がない。
四、そうすると、原告が被告に対して本件各司法書士不認可処分の無効ないしはその取消を求める請求は失当であるというべく、従つて、これを前提として被告に対して司法書士の認可処分をすることを求める請求も、その余の点について判断するまでもなく、失当である。
よつて原告の本訴請求はいずれもこれを棄却することにし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 伊藤和男 原田三郎 武内大佳)